漫画『将太の寿司』柏手の安レビュー

(観客)『あ・・・・あ!!?』『で・・・出るぞ!!!』 (柏手の安)『うーむ・・・みごと!!!』 (柏手の音)パァァァン 『将太の寿司』では、寿司職人だけでなくその周りにも個性的な脇役たちが多い。 今回は、その中でも寿司職人コンクールの審査員である『柏手の安』に注目してみたい。 安の来歴 本名は「溝口 安二郎」と言い、将太が出場した寿司コンクール東京大会の審査委員長を担当。 東京大会の決勝戦から審査を務め、合わせて4人×10貫の寿司を苦も無く平らげるという胃袋の持ち主でもある。 濃いメンツがひしめく将太の寿司においては極めて常識人であり、人柄も癖のない様子が伺える。 しかし、そこは将太の寿司に出てくるだけあり、そんな普通の良い人が審査委員長など担当するわけがなく。 安の柏手 彼は、幼少期から、美味いものを食べると条件反射で柏手を打ってしまうという奇癖を持っている(親の躾では矯正できなかったのだろうか)。 ファミレスとかで飯を食べている最中に急に手を叩く友人がいたら、ちょっと一緒には食べたくないと思ってしまうが、安は学生時代にちゃんと友人と昼飯を食べていたのだろうか。 しかし、寿司対決の際は、この悪癖が分かりやすいことこの上ない旨さの評価バロメーターとして機能するのである。 安が旨い寿司を食う→「素晴らしい!」とか何とか言って安が柏手を打つ→喜ぶ将太→盛り上がる観客→悔しがるライバル職人、というテンプレの完成である。 決勝戦は柏手の発動≒勝ち確定演出と化していたため、途中からは将太達も審査時に柏手待ちするのがデフォルトとなる始末。 柏手が出なければ、他の審査員がいくら美味いと言ってもほぼ点数に反映されないのだから、仕方が無い。 一応本人は悪い癖とは認識しており、大会中も「これからは少し自重しなくてはいけませんね」と話す場面もある。 まあ、その後すぐ柏手を出すのだが。 ただ、食べた瞬間に思わず柏手を打ってしまうというのなら百歩譲って分からなくもないのだが、試食後に味の解説をし終えてから「見事です!」と打つパターンや、両手をかざして目を瞑り、溜めに溜めてから打つパターンもあり、全く抑える気配は無い模様。 なお寿司コンクールの終盤になると柏手を乱発するため、勝ち確の演出とまでは言えなくなってくる。 柏手総括 将太の寿司は、柏手の安に限らず、美味しい食べ物を食べた時のリアクションが異常に大きい。 「何という旨さだ!」と大声を出すのは序の口であり、物語の終盤になると、大の大人が涙を流す、踊りだす、カツラを飛ばす、餓鬼のように貪り食う、寿司を取り合う、トリップする、などといった奇行を披露する。 柏手は手を叩くだけなので、それらに比べればかなりマシな方である。 また全国大会編になると、更に上の立場の審査委員長の爺さんが出てくるのだが、美味いものを食べると「パァン」と眉が上がるという上位互換のキャラだったりする。 とはいえ、柏手の安がその両手で東京大会を盛り上げたのは間違いない。 将太が1回戦で奥万倉に負けて敗退しそうになった時に救ってくれたのも彼であったりするし(大会的にはどうかと思うが)、将太の寿司には欠かせない存在であったと思う。

漫画『将太の寿司』奥万倉新一レビュー

『それではまず奥万倉君のお寿司からいただいてみましょう』 上の負けフラグでお馴染み、『将太の寿司』における主人公のライバルの一人、『奥万倉新一』を紹介したい。 主人公である関口将太は、修行先の鳳寿司を代表して新人寿司職人コンクールに出場するのだが、その時最初に対戦相手として立ちはだかるのが、奥万倉新一である。 奥万倉の来歴 新人寿司職人コンクールに出場する包丁名人であり、落ち着いた雰囲気の好青年。 幼少期に両親と死別し、その後養子になるも、里親が幼くして亡くなった息子の面影を自分に重ねていたことにショックを受けてしまう。 その後家出をし、自暴自棄の末に暴走族になってしまうが、「磯銀」の親方に身を挺して救われたことで改心し、寿司職人の道に入ることとなる。 (この時、親方は鉄パイプによる背中への殴打をはじめ、敵対勢力にボコボコにされている) 将太との最初の勝負では、包丁の技術もさることながら、味の点にまで配慮していた点が評価され、見事勝ちを収めるのだが⋯。 包丁捌きが自慢。寿司ネタを空中に投げたかと思うと、物凄い勢いで包丁を振り回し、見事な飾り包丁を入れてしまうほど。 寿司屋のカウンターでそんな動きをやられたら、一緒に働いている人は危なくてしょうがないのではないか。 まあ、海外で受けそうなパフォーマンスである。 聖人奥万倉 非行に走った経歴を持ちながら、将太との絡みにおいては人間として非常にできた振る舞いを見せる。 一度人生で辛い思いをしている分、人の痛みが分かるのだろうか。 寿司職人コンクールの話になるが、出場者達は、出場にあたってその意気込みを皆の前でスピーチすることとなる。 不運にも、将太はスピーチ前にコーヒーを飲んでいたスタッフとぶつかり、服を汚してしまう。 この際、コーヒーの汚れを隠すようジャケットを貸してくれたのが奥万倉(この時が初登場)である。 その後、自身の勤める寿司屋(磯銀)までジャケットを返しに来た将太に剥きリンゴを振る舞う。 この時、対戦相手という関係となるにも関わらず、将太に自身の包丁捌きを惜しみなく披露し、将太に包丁技術を学ぶきっかけを与える。 更に、コンクールが進んでいく中でも将太に対して激励の言葉をかけている。 また別の話になるが、コンクールの対戦相手が妹の手術代を捻出するお金に困っていたとき、何と自らのバイクを売ってまで金策に走った(暴走族時代の改造車か?)。 しかも、45万という高値で売れている。 残念ながら、東京大会決勝では将太に敗北することとなるが、恨み節を吐く様子も全く見られない。 奥万倉の負けフラグ 将太との初対戦では見事勝利を収めるものの、最後の四つ巴での決勝戦では、尽く引き立て役になってしまう。 将太の寿司も料理漫画でありがちな「最初に料理を出した方が負ける法則」に従うこととなのだが、何故か審査員は奥万倉の寿司を最初に試食したがる傾向にある。 そして、「包丁技術が素晴らしい」「基本がしっかりしている」などと取ってつけたような評価をされつつ、後出しの寿司の咬ませ犬にされるパターンになってしまう。 『それではまず…奥万倉君の寿司からだ』 『まず一人目 奥万倉新一君の寿司は⋯煮ハマグリであります!!』 『まず最初は奥万倉新一君 トリ貝による花菖蒲の寿司です!!』 『それではまず奥万倉君のお寿司からいただいてみましょう』 ⋯奥万倉も、内心「またこのパターンかよ・・・」と思っていたに違いない。 致命的なのが、一番最後に審査されることが殆ど無かったことだろう。 決勝では各自が計10品を出したのだが、奥万倉の寿司はうち2回しか最後に食べられなかったのである。 包丁の技術はピカイチなのだが、強烈な先出しデバフがかかってしまう。 なお、1番の評価を得た2回のうち1つはハマチだったのだが(もう1つはイカ)、それは共に職人を目指そうとした亡き後輩・修一の形見である左利き用の包丁を使ったものによる評価だった。 ・・・故人の包丁を常に携帯しているのだろうか。 奥万倉はいい人だけど不遇 というわけで、漫画中においてはクズ職人達がひしめく中、常識人として将太と対戦したこの人物は、一種の清涼剤となっていたと思われる。 しかし、1回ぐらい最初に食べた奥万倉の寿司が最高の評価を得るシーンを観たかったものである。 (将太の寿司において、後攻側が勝利を収めるケースは2割を切るらしい) なお寿司職人コンクールの全国大会では、もっと上の包丁技術を持つ職人が出てくるあたりも、処遇の不遇さに拍車をかけている。 「柏手はなしか・・・」

漫画『将太の寿司』大年寺三郎太レビュー

少年マガジンで連載されていた『将太の寿司』は、主人公の関口将太が、ライバルの笹寿司の嫌がらせをはじめ、様々な苦難に直面しながらも、寿司職人として成長していく物語である。 将太は修行先の鳳寿司を代表して新人寿司職人コンクールに出場し、幾多の強敵をなぎ倒して東京大会での優勝を果たす。 更に、全国大会へ駒を進めていく中、様々なライバル達がその行く手を阻む。 その中の一人が大年寺三郎太である。 大年寺三郎太とは? 宮城県代表として、全国新人寿司職人コンクールに登場。 流れの寿司職人であり、その技量の高さから「東北の竜」「幻の寿司職人」といった二つ名を持つ。 流れの職人とはいえ、客商売をしているにも関わらず「幻」とかいう二つ名が付いていて良いのだろうか。 どこで修行を積んできたのか?など、詳細な経歴は不明。 年齢は、初登場時で27歳。実に屈強な面構えである。 これのどこが新人なんだ?と思うが、一応店で勤めた期間が短いからコンクールの出場資格は持っていた模様。 まあ、この新人コンクール自体、新人っぽい職人はほぼほぼいないのだが・・・。 大年寺三郎太の人物像 強面の顔に筋骨隆々とした体格を有しており、寿司職人には必要ない戦闘力だけで言えば作中最強と思われる。 一方、強面に似合わず知性も備えており、外国人に寿司を振る舞うときは流暢な英語も使いこなす。 また、将太のライバルはクズキャラが多い中、珍しく人格者である。 職人としての腕も卓越しており、将太には何度も煮え湯を飲ませている。 最終的には全国大会で将太に敗れるものの、読者には強い印象をを残したに違いない。 超人エピソード その腕力を生かし、巨大な本マグロを一人で解体するのは朝飯前。 作中では、以下のような人間離れした活躍を見せる。 早握り対決で、手を増やす 大年寺は、全国寿司コンクールで「千手握り」なる技を披露する。 あまりに高速かつ正確な動作のため、あまりに高速で正確な動作から、その残像によって手が複数本生えたかに見えるという離れ業である。 ドラゴンボールの少年期の孫悟空も、天津飯相手に同様の技を披露していたが、ドラゴンボールはバトル漫画である。 方や、こちらは寿司漫画である。普通、寿司漫画で手を生やす必要は無い。 師匠から受け継いだ究極奥義らしいが、その師とやらが誰なのかは結局不明。 なお、究極奥義はこれ以降出ない模様。 電車に轢かれた翌日に大会出場 笹寿司の息の掛かった人間の策略により駅のホームから転落し、電車に轢かれてしまい、その後入院することとなる(死んでないだけでも凄いが)。 しかし病院では驚異の回復力を見せ、翌日には本調子ではないものの試合に出場。 アンキモ寿司を審査員に披露し、笹寿司四包丁の一人(こいつも無駄にガタイが良い)に対して見事勝ちを収める。 35kmを余裕で完走+飛び降りパフォーマンス 対決前に、三田から明石までの35kmの道程を、調理白衣のまま走り切る。 しかも汗一つかかずに。 大年寺は別に運賃を浮かすために走っていたわけではなく、自身の腰に着けた熟れ鮨に振動を与え、寿司を完成させるのが目的だった。 ・・・ということなので、走った理由は百歩譲って分からなくもないが、何故か車道で車間を駆け抜けるルートを選択。 そしてそのままの勢いで、対決会場へはプラネタリウムの屋根の上から飛び降りて登場。 『大年寺三郎太・・・・見参!!!』 ギャラリーも思わず見上げ、「わ・・・・うわあああ」とリアクション。 そりゃそうだ。 前述の通り、この前の試合では電車に轢かれていたはずなのだが、何とも凄まじい治癒力である。 真冬の海に飛び込みマダコを捕獲 崖の上からマダコの群れを確認したかと思うと、真冬の海にふんどし一丁で飛び込み、そのうち一匹を素手で捕らえる。 将太達も、「え・・・えぇ!?」と驚きを隠せない模様。 その後、審査員に体をタオルで拭くことを促されるも、何と闘気で体の水分を蒸発させてしまう。 出てくる漫画を間違えている気がしなくもないが、闘気を出せる寿司職人は、恐らく大年寺ぐらいのものだろう。 その後、別の対決ではウツボも海中の格闘でサクッと仕留めて寿司に仕上げている。 大年寺まとめ 将太の寿司は、 将太の彼女から届いた手紙を勝手に破棄する人 将太の手を車のドアで潰そうとする人 腐った牡蠣を客に無理やり食べさせようとする人 アサクサノリにガソリン撒いて火をつけてしまう人 など、イリーガルなキャラ達の宝庫である。 そんな中、身体的には規格外だが、勝負自体は正々堂々としたものであった実力派の大年寺は、結構貴重なキャラだったと思う。 また将太に敗北した後も、その力でバックアップするのも頼もしい。 例えば、決勝の課題で将太が嵐によりシブダイを取るための船を出せずにいると、突然海から手漕ぎボートを漕いできて、「さあ乗れ関口将太!」と手を差し伸べるのである。 大年寺なら大時化の海に投げ出されても生還しそうだが、手漕ぎの舟に乗る将太は命懸けだっただろう。 というわけで、大年寺は心技体揃った最強クラスの寿司職人であることがお分かりいただけたかと思う。

漫画『美味しんぼ』山岡士郎レビュー

『この豚バラ煮込みは出来そこないだ、食べられないよ。』 言わずと知れた、 人気グルメ漫画『美味しんぼ』の主人公、山岡士郎。 海原雄山や富井副部長といった傍若無人な登場人物に囲まれ、その貢献にも関わらず不遇な扱いを受けているこの男を紹介したい。 山岡士郎の来歴 東西新聞社の文化部に所属する新聞記者であり、皆からは仕事の出来ないグータラ社員と認知されている。 ある日、会社創立100年記念の事業として、社主の肝いりで立ち上げられた「究極のメニュー」の担当者を決めるべく、急遽文化部の社員たちが料亭へ集められ、味覚テストが行われる。 そんな中、士郎は鋭敏な味覚を披露し、本人のやる気の無さとは裏腹に「究極のメニュー」の担当者として、新人の栗田ゆう子と共にメニュー作りに取り組んでいくこととなる。 山岡はかの美食家、海原雄山の息子であり、英才教育を受けていたこともあって食に関する能力の高さは折り紙付き。 雄山とは家庭での関係性の悪化から絶縁状態にあり、「至高のメニュー」を担当する雄山と対決を繰り広げていく。 キャラの変容 山岡は、初期と中期以降とで、その性格がかなり異なる。 狙ったものではないだろうが、性格が変化するという点は父親の海原雄山と共通する傾向である。 連載初期 黒スーツ+黒ネクタイと喪服のような服装で身を包み、無精髭を生やした風貌をしており、競馬新聞を広げた職場での様子も相まって、寄り付き難い雰囲気を放ったハードボイルドなキャラであった。 また、食を通じて権力者に対しても臆することなく辛辣な意見を言い放ち、会食の場を乱すことも多々あり。 しかし、最終的には持論の正しさを料理で証明することで、周りを説き伏せていく。 また、社員や友人たちが困っているときは、嫌々ながらも問題を解決してあげる一面も持ち合わせており、決して性格が悪い訳では無い。 連載中期以降 連載が進むにつれ、食への妥協を許さない姿勢は維持しつつも、次第に冗談に飛ばしたり悪ふざけをするようなシーンが増えていく。 また、周りからもイジられることが多くなっていく。 更にいつの間にか無精髭も無くなっており、彼なりに徐々に社交性を身に着けていったようである。 しかし、喪服のような服装は相変わらずである。 驚異の人脈 新聞記者であれば、取材等を通じて色々な人との繋がりがあることは理解できる。 しかし、山岡士郎の交友範囲は、職業上の理由だけでは説明できない程の広さを誇っている。 ざっと上げるだけでも、以下のようなラインナップである。 東西新聞社の社主をはじめとする幹部クラス 警察関係(複数の警部と仲良し) 大手百貨店、IT企業等の社長たち 大手銀行の会長 大富豪の商人 大富豪の華僑 副総理 人間国宝の陶芸家 売れっ子カメラマン 真打ちの落語家たち(米国人も含む) 横綱はじめとする角界関係者 ジャズ界の有名プレイヤーたち 銀座界隈に住む浮浪者 日本中の人気店の凄腕料理人たち ラーメン三銃士 劇画原作者 最後の2つは置いておくとして、このラインナップはヤバすぎる。 政治、経済、国家権力、文化と、あらゆる方面での権力者と結びついているのである。 しかも、いずれも面識があるという程度の関係ではなく、悩みを共有したり、軽口も言い合えるような間柄まで踏み込んでいるのも驚きである。 連載初期のアウトローキャラからは考えもつかない人脈である。 連載も終盤にかかると、山岡はめでたく栗田ゆう子と結婚披露宴を催すのだが、(合同結婚式であったとはいえ)そこらの政治資金パーティーなど比較にならないであろう出席者たちが集まることとなる。 極めつけは、実の父親が稀代の芸術家である。 因みに、某AIに山岡の知り合いについて聞いてみると、以下のような回答が返ってきた。 由美子:山岡士郎の妻で、漫画の重要なキャラクターです。 小松:山岡士郎の同僚で、料理の腕前も高い人物です。 田中:山岡士郎の相棒で、主に料理を一緒に作る場面で登場します。 いや、こいつらは誰だ。 何だか色々なグルメ漫画の知識が合わさって、美味しんぼ上での架空の人物を生み出してしまったような気がする。 不遇な扱い 山岡は初期から一貫して無能なグータラ社員という認識を受けている。 しかし、作中取引相手との接待上のトラブルを幾つも解決しており、東西新聞社の買収騒動までも防いでいるのである。 更には社員のプライベート含む数多の問題も解撤しており、思いつくだけでも以下のような活躍を見せている。 大原社主の夏バテを回復 副部長のクビを何度も回避させる(クビにした方が良かったかもしれないが) 局長と息子の親子仲を修復 同僚の結婚(or 交際)の手助け 一応、プライベートに関してはあくまでも業務外ということで、社内での評価に結びつかないことは仕方無いが、それでも社内の活躍により会社の危機を救っているわけである。 それにも関わらず、社員たちからはボロクソに貶されたり、暴力を振るわれたりと、その功績からは考えられないような扱いを受けている。 よっぽど普段の勤務態度に問題があり、クビにならないだけでも御の字ということだろうか。 意外とモテ男 作中では「容姿に優れるわけではなく、モテない」という扱いを受けているが、全くそんな事はない。 ヒロインの栗田ゆう子をはじめ、元同僚、デザイナー、財閥の令嬢、大学生からは好意を持たれたり、学生時代に好かれていた女性も登場するが、当の本人は鈍感で全く気付かない、と、この辺りは漫画の主人公あるあるである。 結婚に至るまで山岡は栗田ゆう子と正式に交際していてはいなかったのだが、山岡が他の女性と親しくなりそうな動きがあると、東西新聞社のお局たち(田畑さんと三谷さん)に察知され、制裁を受けることが多々ある。 二人が交際しているならまだしも、そうでないのにお局たちに詰められるとは、何と理不尽なことか。 また栗田ゆう子を巡り、団社長や近城カメラマンとは恋敵(山岡本人にその認識はない)となるが、彼らはお互いに「団社長/近城カメラマン相手なら勝つ自信はあるが、山岡の旦那は強敵」と高い評価をしている。 山岡士郎まとめ 長年人気グルメ漫画の主人公を張っていただけあり、特に初期は魅力的な個性を持ったキャラクターかと思う。 また、グータラ社員との烙印は受けているものの、栗田さんと結婚し(大手新聞社でのダブルインカム!)、子宝にも恵まれ、海原雄山とも和解し・・・と、順風満帆な人生を過ごすこととなる。 これまでの彼の功績を考えればそれでも足りないくらいかもしれないが、「情は人のためならず」の諺の通り、行いが報われたと思うと救いがあるのではないかと思う。 しかし、父親もそうであるが、決して一緒にご飯を食べたい相手ではないことは間違いない(作中でも、栗田さんの作ったおにぎりや朝食に辛辣な評価をしていた)。

漫画『美味しんぼ』富井副部長レビュー

『酒っつうのは、昼でも、夜でも、酔っ払うのよ。昼間飲んだら酔っ払わない酒があるなら、持って来いってんだ!』 漫画には、主人公の周りを飾る脇役が欠かせない。そして、 『美味しんぼ』にもそんなクズ魅力的な脇役が数多く存在する。 今回は、その中でもひときわ異彩を放っている富井副部長に注目したい。 なお、冒頭のセリフは、酔っ払いながら自分の上司である局長に言い放ったものである。 しかも、就業時間中に。 富井副部長とは? 東西新聞社の文化部にて副部長を務めており、主人公である山岡の上司。 生まれは旧満州で、太平洋戦争の混乱の中で日本に引き上げてきた経歴を持ち、幼少時代は極貧生活を強いられるなど、実はかなりの苦労人。 当初は絵に描いたような嫌味な中間管理職であったが、明るくおっちょこちょいな性格も相まってか、(後述のエピソードからはにわかには信じ難いが)周囲からは悪いイメージは持たれていない様子。 また、上司に対するゴマすりは欠かさない。 家では恐妻家という一面もあり、奥さんの分まで家事をこなしている。 あと、漫画ではいつも変な水玉柄のネクタイを身に着けている。 奥さんからプレゼントでもされたものだろうか。 なお、物語終盤では部長代理に昇進するため、代名詞となっていた「副部長」の肩書きは消滅する。 酒乱エピソード ここからが富井副部長の本領発揮である。 この男は、酒が入ると信じられない行為を働くのである。 上の立場の人間に暴言を吐くのは序の口であり、暴力は振るう、器物損壊はする、など、今なら迷惑系Youtuberとして有名になってしまうのでは、と思わせる行動を躊躇なくやってしまう。 さすがトミー!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる!あこがれるゥ! その結果、社会人として、いや人としてありえないレベルの事件・騒動を起こしまくっている。現実なら、複数回は会社をクビになり、かつどこかのタイミングで書類送検となっていても全く不思議ではない。 その中から、いくつか代表的な酒乱エピソードを紹介したい。 舌禍事件 新聞業界のゴルフコンペでまぐれで優勝し、その後のパーティーで泥酔。 優勝スピーチにて、あろうことかライバルの帝都新聞の社員(最終ホールまで優勝争いをしていた人)に対し「東西新聞の企画『究極のメニュー』を真似した」「他社の企画を真似するなんて恥であるうっ!」などと暴言を吐く。 相手から「無礼者」と言い返されると、壇上から殴りかかろうとする始末。 この後記者クラブからの追放を訴えられるまでに発展するが、山岡の助力により事なきを得る。 昇進を考えていた上司に暴行 同期が昇進するとの話を聞き、それを妬んだ富井副部長。 すると社外でしこたまヤケ酒をあおったのか、泥酔姿で会社に現れたかと思うと、大声を出す。 『こんなしみったれな会社、辞めちまおう!!くけけー!』 人生この方、「くけけー」って叫ぶ人は見たことがない。 その場には小泉局長がおり、実は富井副部長が現れる前に、彼の昇進を考えていることを山岡達に話していた(未確定の人事情報を大っぴらに話すのもどうかと思うが)。 だがそんな事情を知らない富井副部長は、自分のことを評価していない(と思っていた)小泉局長に向かい、「このタコ」などと暴言を吐く。 それだけでは留まらず、局長の胸ぐらを掴んで怒鳴り散らす蛮行に及ぶ。 結果、昇進の話が流れるどころか、クビ問題にまで発展するのである。 なお、山岡の画策によりクビは免れた模様。 子牛音頭行くぞー! 居酒屋にて識者達がBSE問題について論じている中、やはり泥酔。 その後、勢い良くテーブルの上に土足で乗り上げたかと思うと、「BSEが怖くて衛星放送(BS)が見られるかってえんだ!」などと、頓珍漢なことを訴える。 更に、『子牛音頭行くぞー!』との合図を皮切りに、「♫モォーモォー♫」と叫びながらテーブル上の料理を辺り一面に吹っ飛ばす。当然、料理は飛び散るし、お皿も割れる。 こんなこと、酒を覚え始めた学生でもまずやらない行為だろう。 というか、子牛音頭って何だろう。 料理を引っ掛けられた識者達からは反感を買った挙げ句、その様子を見ていた帝都新聞の記者に記事にされてしまい大事に発展する。 史上最低の肴 またしても同期が部長に昇進して落ち込む富井副部長。 そんな中、富井副部長がいまだに昇進できない理由が「酒癖の悪さ」であることを小泉局長から聞き出した山岡(聞くまでもない)。 そしてそれを山岡から聞いた富井副部長は、断酒を決意するのである。 どうでも良いが、この会社の人事情報の筒抜け具合は酷すぎる。 そんな富井副部長の様子に心を打たれた山岡は、富井副部長の断酒を手助けすべく、文化部の社内企画「絶対に酒の肴にならない食べ物自慢大会」を開催する。 参加者たちがテーマに沿った食べ物を紹介し、会は順調に盛り上がりを見せたかに思えたが、やはりここでも富井副部長は日本酒片手に出来上がってしまう。 『酒に肴なんざいるもんけぇ。』 自分のために開いてくれた会の趣旨を根底から否定する発言である。 その後、いつものように(!)大原社主と小泉局長の口に日本酒の徳利を押し付け、無理やり一気飲みさせる暴挙に出てしまう。 その他の失態 上記以外にも活躍の場を挙げればキリが無いが、参考までに一端を紹介しておきたい。 酒絡みは言うまでもなく、酒以外でもまあまあな事をやらかしている。 タイ人女性記者の前でタイ米を「家畜の餌」などとこき下ろし、あわや国際問題に発展しかける 酔っ払ってぶつかってしまった相手のベトナム人をスリと勘違いして交番に突き出す 接待相手の韓国のお偉いさんがスピーチしている最中、目の前でタバコをふかし始める その韓国のお偉いさんがキムチを食べ「辛過ぎる」と感想を言うと、『へ?辛すぎる?キムチって辛いものでしょう?』からのタバコスパー、酒をグビグビ、の連続失礼コンボ炸裂(信じられないが、山岡に指摘されるまで、大原社主達も含め機嫌を損ねた原因が分からなかった) 人事部長の顔めがけ、口からコーヒーを噴射(これは山岡にも責任あり) 電話をかけてきた作家先生の声が聞き取れず、失礼過ぎる発言で対応(組んだ足を机に乗せながら電話をするのも高ポイント) 黒酢詐欺の片棒を担ぐ(そもそも就業規則に引っかかるのでは) かき氷の食べ過ぎで病院へ搬送 ケーキバイキングで食べ過ぎでぶっ倒れ、店内のケーキやテーブルを損壊 法事でお銚子2本を同時にラッパ飲みした挙げ句、帝都に勤める親戚に向かって飛びかかる 振り返ってみると、何故かアジア系の人々に失礼な行為を働いていたことが良く分かる。 それでもエリートな富井副部長 この記事を書くために富井副部長のことを調べていたら、Googleの検索履歴が富井副部長で埋め尽くされてしまった。 検索の中で、AIによる富井副部長の概要も出てきたので、以下に紹介する。 『富井副部長の年収は、約1800万円と推定されています。これは、日本第二位の部数の大手新聞社の本社勤務の管理職の年収の目安です』 作中で富井副部長は「しみったれな会社」と文句を言っていたが、立派な勝ち組企業であることが伺える。 真面目に働いている普通の会社員がこんな年収情報を見せられたら、勤労意欲はさぞ低下するに違いない。 しかも、最後の方では部長代理への出世を果たしている。この会社の人事評価制度はどうなっているのだろうか。 こんな富井副部長だが、アニメ版の声優の声が副部長のキャラ・見た目とどハマりしているので、是非興味のある方は見てみて欲しい。くけけー!

漫画『美味しんぼ』海原雄山レビュー

『馬鹿どもに車を与えるなっ!!』 言わずと知れた『美味しんぼ』の人気キャラクター、海原雄山。 その強烈な個性で人気を集めており、おそらく馬鹿どもの1人にカテゴライズされるであろう私もお気に入りの登場人物の一人である。 連載が終了して久しいが、今更ながら改めてこの人間を振り返ってみたい。 海原雄山とは? 美味しんぼの主人公である山岡士郎の実の親。 陶芸をはじめとする著名な芸術家である傍ら、食を追求すべく美食倶楽部を経営する。 山岡とは過去に妻の死をきっかけに親子関係を断絶していたが、最終的には和解に至る。 海原雄山の気性 連載初期は、極めて粗暴かつ傲慢。 気に入らないことがあれば、山岡をはじめとする周囲の人間に所構わず当たり散らす。 一方、自身の陶芸の師匠である唐山陶人に対にしては、一定の敬意を払う姿が見られる。 また、食に関して自身に非があれば、悪態をつきながらも負けは認めるという、意外と素直な面もある。 連載が進むにつれてその傲慢さは影を潜めていくとともに聖人化・神格化していき、しまいには「雄山が妻をDVの末に早死にさせていた」という山岡の主張も医者によって覆される展開に。 しかし、妻には日常的に何度も食事を作り直しさせていた時点で、立派なDVではなかろうか。 幼少期の士郎が皿を割ってしまった際には、「この皿一枚ほどの価値のないおまえが!」「●ね!●んで償え!」とか怒鳴っているし・・・。 「流石にその擁護は苦しすぎのでは・・・」と思ったが、医者が言うのだから仕方ない。 傍若無人エピソード その強すぎる唯我独尊ぶりゆえ、周囲を巻き込んだ迷惑エピソードには事欠かない。 山岡のみならず、美食倶楽部の料理人など、多くの人間が多大なる被害を被っている。 その中のごく一部を紹介したい。 天ぷら職人対決 記念すべき山岡との初対決。 互いが面識の無い天ぷら職人達のうち、誰が最も美味い天ぷらを揚げられるかを当てるという謎の勝負である。 山岡は、職人の舌と掌や、職人の事前調理の様子を観察して予測していたのだが、何と雄山は持参のテープレコーダーを用意。 『このテープの天ぷらを、揚げる音が変わったと思うところで手を上げろ。』 たった一コマの中での流れるようなやり取りである。 いや、用意周到すぎない? 恐らく美食倶楽部の中川あたりに録音してもらったのだろう。 確か、この勝負のテーマも雄山が提案したはずなので、その時から「中川に録音してもらおうっと」とでも考えていたのだろうか。 結局、勝負は雄山が勝ち、ここぞとばかりに山岡を罵った。 仔牛対決 山岡と雄山は、とある飼育業者の元を訪れる。 雄山は山岡に対し、飼われている仔牛からどれか1頭を選べと言う。 山岡は仔牛を厳選し、一番状態の良さそうなものを選ぶ。 しかし、雄山はこう言い放つ。 『私はあの中からは選ばない、絶対に。』 理由は、仔牛が全部牡かつ去勢しているからだそう。 いや、あなたがこの中から選んでみろって言いましたやん!! しかし、山岡をはじめ、その場の誰も抗議することは無い。 打ちひしがれる山岡を横目に、雄山は高らかに勝利を宣言する。 うわあっはっはっはっは! 鴨肉にわさび醤油 フランス料理屋の宴席に招かれた山岡たち。 そして、やはり雄山もこの宴席に招かれていた。 料理が運ばれてくる中、雄山はこれ聞こえがしに「フランス人は魚の食べ方を知らない、この魚なら、バターや生クリームよりも酒蒸しの方が美味い」などと言い出す。 そして周りの客も「なるほど海原先生の言われる通りだ」と雄山を持ち上げる始末。 当然、料理店のオーナーもいい顔をしない。 そんな最中、料理店自慢の鴨料理が登場。 鴨の骨髄を抽出したソースが名物で、山岡たちも絶賛する。 しかし、雄山は鴨肉をソースに絡めずサーブさせたかと思うと、悪そうな人相の側近(初期中川?)に用意させたワサビ醤油で食べ始める。 『うむ、この方がうまい』 失礼な行為は更にエスカレートし、他の招待客にまでわさび醤油を振る舞い始める始末。 そして取り巻きも同調する。 とどめを刺すかのように、上機嫌かつ大声でフランス料理を侮辱する。 ・・・これはあまりに酷い。出禁ものである。 しかも、普段からわさび醤油なんて持ち歩かないと思うので、わざわざ鴨料理を罵倒するだけのために、前日からわさび醤油を準備していたのだろう。 天ぷらのカセットテープの件と言い、実に用意周到である。 ちなみにこの後、美食倶楽部の懐石料理でカツオの刺身を振る舞ったのだが、山岡にマヨネーズを使って食べられて、「こんなのは邪道だ」と怒っている。なんというダブスタ。 最終的に、怒りのあまり自分のお膳をひっくり返して「これだけ程度の低い客ばかり集ったのは初めてだ!!」「とても付き合えん、あとは勝手に食べて帰るがいい!!」と言って部屋を出ていってしまう。 最初から最後まで、雄山の素晴らしい小物っぷりを堪能できる回となっている。 その他クズエピソード ・料亭の料理にクレーム 大原社主の誘いで訪れた料亭の料理が不味くて、お膳から料理皿を払い除けて吹っ飛ばす。 大原社主は、食事を通じて山岡との仲直りを図ろうとしたのだが、雄山は「あいつ、家出する時に大事な作品全部壊したんだわ。まじ許せんわー」と取り付く島もない様子。 名言「女将を呼べっ!」が生まれたのも、この回である。 ・美食倶楽部の料理人へのパワハラ1 美食倶楽部にて蕎麦を食べようとしたところ、付いてきた薬味が気に入らず、美食倶楽部の料理人の顔に薬味皿を投げつける。 皿は見事料理人の顔に命中。 ・ハンバーガーとアメリカ人の悪口 ハンバーガーの事を、「味覚音痴のアメリカ人の食べるあの忌まわしいハンバーガーを!!」と罵る。 時と場所によっては、外交問題に発展しかねない過激なセリフである。 ・美食倶楽部の料理人へのパワハラ2 美食倶楽部で食事を取っていると、突如厨房へ現れ「このあらいを作ったのは誰だあっ!」と咆哮。 更に、作った料理人に対し、理由も言わずクビを宣告。 せめて理由くらい言ってあげればいいのに・・・。 ちなみに、薬味皿を投げつけられた料理人と同一人物。 ・幻のサバの味に屈服も、頑なに負けは認めず サバを下魚と断じていた雄山に対し、山岡が幻のサバを提供すると、味についてはコメントせず、盛り付けに用いられていた器のデザインにケチを付け、その場を退席。 「こんな器で料理が食えるか、不愉快だっ!!」 ・車内での暴言1 渋滞に巻き込まれた際、「馬鹿どもに車を与えるなっ!!」との問題発言。 隣の中川も「ははっ」と返してお茶を濁すのが精一杯。 ・車内での暴言2 後部座席にて車移動中、あわや道路に飛び出した山岡を轢きそうになってしまう。 その際に中川+山岡に言い放った一言。 『野良犬の一匹や二匹ひき殺したからといって、いちいち私の車を止めるな!』(えぇ・・・) ・妻へのDV 妻の出す料理が不味いと、何度も作り直させていた。山岡と仲違いした要因となる。 なお、作中では美談に仕立て上げられる。 海原雄山まとめ そんな傍から見る分には魅力溢れる雄山であったが、巻が進むごとに聖人モードにアップグレードされてしまい、往年の粗暴さは影を潜めてしまった。 キャラ的には、中盤辺りの、傲慢でありつつもたまの優しさを見せる辺りがバランスが取れていたかもしれない。 その辺りでは、山岡に対する歪んだ愛情も垣間見られる辺りも垣間見られ、例えばカブ対決では雄山勝利が濃厚であったにも関わらず、山岡の狼狽ぶりを見た後で「やっぱやり直し。異存ないよな。」と仕切り直しを提案するようなツンデレ場面などを楽しむことができる。